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ウィットビー ジェットのお話(昨日の続きです) [アンティーク]

ジェットに対する熱い思いを今日も語ります


モーニング(哀悼を表す)ジュエリーとしてジェットの装身具は19世紀以前から作られていましたが1837年、時の国王ウィリアム5世が崩御された際はそれまで見られなかったほどの流行をみせました。これには人々の需要を安定的に満たすことのできたウィットビー産ジェットの存在が大きかったのです。旅館の亭主と画家による副業から始まったウィットビーでのジェット作りも19世紀半ばには50もの工房が町にならび、1873年にはその数は200を超えていたのです。

産業革命が起こり鉄道網が発達するとウィットビーのジェットは世界に広がるイギリスの植民地、欧州各国やアメリカなどに輸出され、イギリスのみならず世界的な名声を得ることに成功しました。

それでもジェットは今も昔も高級品。特に当時は庶民がおいそれと手に入れられるものではありませんでした。代用品としてジェットの粉末をゴムで固めたヴォルカナイト(ジェットのような輝きはありませんがマットな質感を楽しめます)、ボグオーク(泥炭地に埋まっていた為に黒色になったオークの古木。元が木だとはとても思えないジェットと異なり木の質感が残ってます。とても堅い素材です)、フレンチジェット(フランス産のジェットという意味ではありません。黒色硝子で作られています。硝子ですのでジェットよりも重く、触った時の手に感じる温度の違いー硝子らしい冷んやり感があります)などでモーニングジュエリーが作られていました。

ウィットビーでは素材の良さだけに頼らない高度な加工技術、優れたデザイン(芸術的感性を育てるために独自のデザイン教室が開設されていました)によって名声を確保してきましたが、それだけでなくこれら代用品がウィットビージェットとして売られることのないよう神経をとがらすことによっても名声を保つようにしたのです。

1861年の12月。クリスマスを前にしてヴィクトリア女王陛下の最愛の御夫君であるアルバート公がお亡くなりになります。女王は長い服喪に入り常に喪服を着て生活をするようになりました。女官や謁見する女性にも同じことを求め、ジェットも喪服に着けるための装身具として定められることになったのです。喪に服することが最大の美徳であるとされ、ウィットビーのジェットは隆盛の絶頂期に入りました。

ジェットが隆盛を極めたのにはもう一つ理由があります。史上初の産業革命を成し遂げ七つの海を支配し、陽の沈まぬ帝国と呼ばれたイギリスが最も繁栄していた19世紀という時代においてもなお平均寿命は50歳に達しませんでした(平均寿命が50歳になったのは1900年のことです)。乳幼児の死亡率も高く、現代に比べ当時の人は親族の喪に服していた時間がとても長かったのです。店主はロンドンのナショナルポートレイトギャラリーが大好きで、コンピューターライブラリーに保存された19世紀の古写真を見るのを楽しみにしています。モーニングドレスを着てジェットを身に着けた貴婦人の写真もよく見ることができますが、モーニングドレスに金やダイヤモンドの装身具など想像もつきません。人々がモーニングジュエリーとしてのジェットを必要とする社会的、歴史的な背景が19世紀ヴィクトリア朝の時代にはあったのです。

やがてヴィクトリア女王即位50年の式典を皮切りに喪が明け出し、人々が明るく華やいだジュエリーを求めるようになるにつれ、ジェットは急激に衰退していきました。隆盛を極めたウィットビーの鉱山も20世紀を迎える前に閉山してしまいます。

21世紀の現代、かつてのようにジェットは「幻の宝石」ではなくなりつつあります。中国産やロシア産の他にヨーロッパでもジェットを再び採掘しだしています。それでもアンティークのジェットには良質な素材が使われているということ以外にも、現代品には無い二つの偉大な価値があります。ひとつは言うまでもなく100年以上を生き抜いてきた歴史の証人であること。そしてもう一つは人の思いです。かつて誰かが実際に大切な人を偲ぶ気持ちと共に身に着けていたという事実です。

混じりっけの無い漆黒一色のジェットを使いこなせるのはお洒落の上級者です。喪の正装の際としてお使いになるだけでなく、お洒落の幅を広げるためのチャレンジにもぜひどうぞ。店主もあまり大振りでない、できればシンプルなデザインのウィットビージェットのロザリオを自分用に欲しいなと思っています(クリスチャンではありませんが・・・)。


一つのテーマでもそれに関連することは一つではないので、

深く掘り下げると関連する様々なことについても記述する必要があるのでどうしても長くなりがちです・・・

昨日に引き続きお読みくださりありがとうございました

ショップでもコラムとして載せていこうと思っています

でもちょっと長すぎるかも・・・

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