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Play of color (オパールのお話) [アンティーク]

「虹を閉じ込めた石」

オパールに閉じ込められた虹の数は一つでしょうか?二つでしょうか?それとも三つ?正解は・・・“幾つもの”虹です。見る角度、光の入り具合によって常に色あいが変化し、色彩豊かな虹色の輝きが尽きることなく次々と現れるためには一つや二つの虹ではとても足りないからです。

オパールが虹色に輝く科学的な理由は別のところにあります。オパールを構成しているのは電子顕微鏡で10万倍に拡大してやっと分かるくらいの小さな小さな球状の二酸化珪素(けいそ)の粒と水です。実はオパールは他の宝石と違って結晶化されていません。二酸化珪素は結晶のように規則的に配列され、層状になって集まっていますが結晶のように元素同士が結びついてはおりません。また水を含んでいるのも数ある宝石中唯一で、水はオパール全体の5~10%稀に20%を占め、二酸化珪素と不規則に混じり合っています。

粒子は規則的に並んでいますが粒子と粒子の間には隙間が生じています。オパールに光が入ると規則正しくぎっしりと並んだ珪素の粒子の配列によって光はプリズムのように七色に分光され、七色に分かれた光はそれぞれの色ごとに粒子の隙間と水の中で反射を繰り返すことによって七色の虹の光のきらめきが次々と現れます(遊色効果)。これがオパールが虹色に輝く理由です。

この虹色の輝きは数ある宝石の中でオパールだけに見られる特徴で、粒子の大きさや配列具合、水の量や含み具合、粒子の隙間の間隔の違いによって現れ方が変わってくるため虹の色あい、色あいの変化の仕方、地の色(ホワイト、ブラック、赤やオレンジ色のファイヤーオパール)や斑まで全て違ってきます。つまりオパールにはひとつとして同じ輝きの石は無いのです。

ただ全てのオパールが虹の輝きを放つ訳ではありません。含まれる水の量が少なかったり、粒子の間が密で隙間が無い石は遊色効果が現れませんので宝石としての価値はほとんどありません。

科学のお話は以上として・・・ムーンストーンが月の光を閉じ込めた石であるのと同じようにオパールは虹を閉じ込めた石。しかもたくさんの虹の光が閉じ込められている。それでよいではありませんか。ジュエリーは美しさとともに夢やロマン、遊び心によって人の心を満たし楽しませてくれるのですから。

さてこのように素敵なオパールを人間はいつの時代から愛していたのでしょうか?古代ローマ人は幸運と希望をもたらす石オパルスと呼んで非常に大切にしていました。クレオパトラにプレゼントするためにアントニウスがノニウスという元老議員がもっていた見事なオパールを譲ってくれるように頼んだのですがノニウスは頑としてこれを拒否。怒ったアントニウスによってローマを追放されるのですが他の財産は全て残し、アントニウスが欲しがったオパールの指輪ひとつを身に着けてローマを出奔したという話はあまりに有名です。

ノニウスが決して手放さなかったオパールのその後の行方は分かっていません。さすがに古代ローマ時代のオパールのジュエリーを手に入れるのは相当困難ですし、仮にどこかの遺跡から掘り出されたとしてもすぐに博物館へ直行してしまうことでしょう。古代ローマからは相当時代は下りますが16世紀、エリザベス1世がスペインの無敵艦隊を破るという大功績を上げたフランシス・ドレーク卿に贈った太陽を模したエリザベス女王の肖像付きのオパールとルビーの素晴らしいブローチ。こちらの作品は現存しています。

オパールはその後もヨーロッパの人々に愛され続けますが18世紀から19世紀にかけて一転して不人気になってしまいます。ウォルター・スコット卿の小説の中で主人公がオパールの髪飾りとともに魔法をかけられ、そのオパールを手放すまで散々な目にあうという物語の中のお話がいつのまにかあたかも実際のオパールによって起こることと誤解され、オパールは不幸を招く石だとして人々から敬遠されたのです。

それでもいつの時代でも進歩的な人はそのような世迷言になど惑わされません。ナポレオンはジョゼフィーヌに「トロイの炎上」と呼ばれた見事なファイヤーオパールをプレゼントしていましたし、ヴィクトリア女王もアルバート公とともにオパールを非常に愛していました。夫君であるアルバート公も自らデザインを手がけるほどのジュエリー好きです。ヴィクトリア女王は王女たちが自分たち夫婦と同じように仲睦まじく幸せであるようにとの思いを込めて嫁ぐ娘にオパールのジュエリーを贈ったのです。

ヴィクトリア女王の尽力でオパールの人気は息を吹き返しました。アールヌーヴォーの時代では清楚なホワイトオパールが、アールデコでは今度はブラックオパールが人気を集めたのです。もちろん現代よりはるかに質の佳い石が使われているのは言うまでもありません。

オパールは水分を蓄えた瑞々しい石です。100年経っても瑞々しさを失わないアンティークのオパールのようにいつまでも若々しく瑞々しい自分でいたい。そう求めるあなたに歴史を継いでいただけたら・・・とってもうれしいです。

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