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リバースインタリオの指輪 [アンティーク]

リバース(ペインテッド)インタリオは技法の名前

エセックスクリスタルの名で良く知られるリバースインタリオに描かれたモチーフは、

犬や馬、鳥や狐、鹿といった動物ものが多いです

愛犬家が多いからなのか犬さんを描いた作品は比較的見つけやすいのに比べ、

猫さんはまず見かけません

あったとしてもお顔が気にいるかはまた別の問題なのでなかなか難しいです

ピクウェ同様自分には縁のないものなのかな・・・と思っていました

でも、出会いはやはり必然、ついに巡り会えたのがこの指輪です!

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「絵画」(二次元)のはずなのに立体的(三次元)に浮き上がって見える・・・

このことがまず不思議に感じられると思います

ドーム状になっているからレンズの効果で立体的に見えるのでしょうか?

実はそれとはちょっと違います

基盤に絵を描いて水晶(ロッククリスタル)で蓋をしたのではありません

順を追って説明すると

1.水晶をダイヤモンドののこぎりで切断します(切断面を綺麗にするため)

2.切断した水晶を研磨(全部で20もの工程を踏み、もちろん全て手作業)しカボションに整えます

3.水晶の裏側(リバース)から沈み彫り(インタリオ)を施します

周囲を彫り、モチーフを浮かび上がらせる浮き彫(カメオ)とは逆の技法になります

ただ裏側を「削る」のではありません。表側に向かって「彫る」のです

言葉にすると簡単ですがそれがどんなに大変で難しいことかを想像してみてください

表面から見た時に正像になることをイメージしながら割れないよう慎重に彫り進めていきます

4.彫り込んだ面を更に研磨していきます

サンドペーパーなどではなくダイヤモンドの粉末を混ぜた油を使います

5.彫り込みが完了したら水彩で絵を描きます

でもここで疑問が湧いて来ませんか?

「水晶を裏から彫って彩色」、リバースインタリオについて必ず説明されていることですが、

そもそもどうやって水晶に色を付けるのでしょう?

エナメル彩の硝子のようにエナメルを塗布して焼付するのでしょうか?

彩色の方法についてまで説明してあるものはほとんどありません

答えは・・・

6.ただ色を塗っただけでは定着しないので針(けがき針)で直接水晶に色を刻みこむのです

10倍のルーペではよく分かりませんが、

通常使わない20倍のルーペで見ると細かい針で刻みこんだことが分かります

7.彩色が完成したら真珠の母貝(マザーオブパール)のプレートで裏側に蓋をして、

フレームにセットしたら完成です

(マザーオブパールを使わずにフレームのゴールドを金屏風のように背景にする作品もあり)

制作に使われた道具の総数は実に250種におよび、

細かい所の彩色のために毛が一本しかない筆までありました

どれだけ手間と高度な技術が必要かお分かりいただけたと思います

リバースインタリオを生みだしたのはベルギー人でヨーロッパ大陸由来の技法ですが、

世界初の旅行会社を創業したトーマス・クックの後援を受け、

1860年代から盛んに制作されるようになったイギリスで特に人気を博しました

最初は主に裕福な上流階級の男性のために作品が作られました

鳥や狐のモチーフは狩りの獲物でいわばトロフィーのようなもの

馬は狩りで跨る愛馬、犬は猟犬といった具合です

やがて19世紀も後半の1880年代になると女性向けに作品が作られるようになりました

描かれた犬も猟犬から家族の愛犬へと変わっていったのです

ブローチ、ペンダント、カフリンクス、クラバット(ネクタイの原型)ピン、ハットピン等々、

様々な作品が作られましたが最初からリングとして作られたものは実は稀です

こちらも元々はおそらくピンとして作られたものであり、フープ(輪)は後付けです

でも全く違和感がありません

可憐な一輪のお花はもちろんぜひ小さな葉の部分も見てもらいたい

初めから指輪として作られたものではないのに、

こんなに素敵な指輪、他になかなかないと思いませんか

次に受継がれるのはあなたかもしれません

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