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センチメンタルジュエリーのお話 [アンティーク]

「私小説」。「私写真」。作者が実際に経験した出来事を素材にして作られた作品(小説、写真)のことです。作者自身の非常にプライベートともいえる私的な世界を描いた作品世界。その概念は日本独特のものとされています。でも、ヨーロッパにもあるのです。小説ではなくジュエリーで表現された私的な世界、それがセンチメンタルジュエリーです。

生きているといろいろなことがあります。それらのほとんどは人との出会いによって得られるものでしょう。たとえば愛の喜び。結ばれることなく終わったものであっても愛するということはとても素晴らしいこと。恋人や妻に対する想いや愛情を伝えたくてパドロック(南京錠)のペンダントを贈りました。込められた意味は「離れることの無い愛」。出会いがあれば別れもあります(この場合の別れとは恋愛の解消や離婚のことではありません)。故人の髪の毛をセットしたロケットや、肖像を描いたミニアチュール(細密画)のブレスレットなどを作り、故人を偲ぶ気持ちをジュエリーで表現しました。

愛情、友情、別離、誓い、思い出、記念日・・・センチメンタルジュエリーは自分と相手との関係によって成り立ちます。他者との関係性の無い孤独な「自分一人だけ」の世界では成立しないものなのです。デザイン、モチーフ、素材、それぞれに決まった約束事(固有の意味)があり、相手への伝えたい思いに応じてジュエリーを贈ったのです。贈る人と贈られる人、身につける人と身につけた姿を見る人の間だけの極めて私的で感傷的な世界。広い意味では16世紀にはすでに存在していましたが隆盛を極めたのはやはり19世紀で、単なる財産としてのジュエリーにとどまらないセンチメンタルジュエリーを作ることができるというのは当時大変なステイタスだったのです。

センチメンタルジュエリーは“人の思い”を込めてつくられたジュエリーの総称です。以前ジェットのお話をしましたがジェットが使われたモーニングジュエリーも「亡き人を偲ぶ」という意味でセンチメンタルジュエリーに含まれますし、「Rのお話」で紹介したメッセージジュエリーであるREGARDも「敬愛の想いを伝える」ということですからこちらもセンチメンタルジュエリーに含まれます。

私的な個人間の世界を表現したある意味究極の(狭い)世界ですが、隠されているメッセージは人の思いの数だけ存在するのでセンチメンタルジュエリーはとても奥の深い広い世界でもあるといえます。そして二人のためだけの秘められたメッセージはいつも一つだけとは限りません。デザイン、モチーフ(題材)、素材の組み合わせによって二重三重の意味を持たせることもあったのです。間接的表現は好まれていましたが全てがそうではありません。リングなどに文字を刻んで直接的にメッセージを伝えた作品もありました。

伝えたい思い。せっかくジュエリーに託すのですから思いっきり趣向を凝らしたい。宝石を使った言葉遊びを最初に始めたのはナポレオンの二番目の妻であるマリー・ルイーズです。華やかなジュエリーを愛した前妻のジョゼフィーヌと違い高価な宝飾品にはあまり興味を示さなかった彼女ですがそれでも歴史に残る素晴らしい3つ揃いのブレスレットをナポレオンのために作らせました。1本目はナポレオンの誕生日、2本目はマリー・ルイーズの誕生日、そして3本目は二人の出会いの日と結婚の日が宝石(の頭文字が綴りだした言葉)で表現されています(現存)。

思いを伝えるのは宝石による言葉遊びだけではありません。花言葉に込められたメッセージを伝えるためにお花をデザインとしたブローチやペンダントなどが作られました。「無垢な美しさ」、「純粋」(鈴蘭)、「密かな恋」、「私を想って」(パンジー)、「永遠の愛」(蔦)、そして店主も大好きな勿忘草(「真実の愛」、「私を忘れないで」)など。

この他にもセンチメンタルジュエリーに用いられたデザイン、モチーフ、素材は多岐に渡りますがジュエリーに作られたそれらはどれも人を思いやる暖かな気持ち、ユーモアあふれる楽しい遊び心や余裕のある本当のゆとり、深い教養や洗練された豊かさを感じさせてくれるものばかりです。どれも現代社会では失いかけているものばかり・・・。でもまだ完全に失った訳ではありません。今ならまだ間に合います。鈴蘭のもう一つの花言葉は「幸せが戻ってくる」です。失ったものはみんなで少しずつ取り返していけばこの世界にも素敵なことがきっとたくさん戻ってくる。そう僕は信じています。

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yakko

こんばんは。お越し戴きアリガトウございます。♪
by yakko (2012-07-12 19:54) 

Extar15

yakko様

こんばんは、こちらこそniceとコメントをしていただきありがとうございます。また寄らせていただきたいと思いますのでどうかよろしくお願いいたします。
by Extar15 (2012-07-12 21:03) 

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